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PowerFLOWの基礎をなすテクノロジー: 格子ボルツマン法が基となる物理学

PowerFLOW®の基礎と成るテクノロジーは、2つの大きな要素である流体ソルバーと乱流モデルに分けられます。以下は、それぞれの分野の概念についてご説明いたします。

DIGITAL PHYSICS®にいたる動機と理論的概念

従来のCFDでは、流体の動きを表す偏微分方程式であるナビエ・ストークス方程式が基になっていました。この方程式は、多くのの流れに対して論理的に妥当ではありますが、非常に複雑で非線形です。この方程式では、その性質上ごく単純なシナリオ以外は直接解くことができないため、実用的なアプリケーションでは、近似値を求めるための数値的な手法を使用する必要があります。したがって従来のCFDアプローチの欠点は、ナビエ・ストークス方程式自体にあるのではなく、解を求めるために使用する数値手法にあります。

当社の熱流体解析ソフトウェアPowerFLOWでは、流体の流れ計算に対してほかの商用CFDコードとは大きく異なるアプローチを使用しています。従来のCFD解析では流体を連続体レベルで数式として記述するN-S方程式を採用しているのに対し、PowerFLOWの最新技術Digital Physicsでは、離散ボルツマン方程式を用いてより基礎的なレベル、すなわち運動学的レベルで流体をシミュレーションする点が大きく異なります。ボルツマン方程式は、粒子分布密度関数の力学のベースとなる方程式です。

流体のシミュレーションにおいてこの新しい手法を採用する最大の理由は、運動力学的記述を使用することにより、N-S方程式での記述と比較して物理モデルがよりシンプルかつ汎用になることです。つまり、難解な非線形偏微分方程式の解を求めるのではなく、粒子や粒子集合体の運動力学的な挙動を捉えることに限定されるため、物理モデルをシンプルに出来るのです。さらに、この汎用性の高いメゾスコピックな記述は、粒子の相互作用を増すことにより、多相流や多種混合流、さらに広範な空間および時間スケールでの計算にも有用であり、複雑な流体物理をより高い精度にモデル化することができるのです。理論上、N-S方程式は、時間スケールおよび空間スケールを限定したボルツマン運動学理論の近似方程式であることが知られています。しかしながら、粒子の微視的なすべての挙動を完全に復元し数値計算することは膨大なコストがかかります。連続体レベルでボルツマン方程式を用いたシミュレーションも同様です。この課題を解決する為に、対象とするマクロレベルの挙動を高い精度で復元できるだけの十分な物理現象を捕らえながら、メゾスコピックな挙動を単純化したモデルの構築を目的とした新しい手法の研究が始まりました。これが、PowerFLOWで使用するDigital Physics方式の基盤となる概念であり、格子ボルツマン法(LBM:Lattice-Boltzmann Method)と呼ばれています。

これらの解析手法によってどのように流体がシミュレーションされるかをより深く理解するために、それぞれの手法の基礎をなす理論的な枠組みについて比較しながら解説します。

まず、どの手法も物理的に現実である微視的なレベルからスタートします。このレベルでは、膨大な数の離散粒子が連続空間で移動します。粒子は、方向および速度の制限なく自由に移動し、空間内のどこにでも存在できます。この粒子の速度と位置を示す空間は、「位相空間」と呼ばれます。

最初に、従来のCFD手法を使用した流体解析の理論ステップについて説明します。この手法は、まず微視的なレベルに、有用かつ有名な運動学理論と統計物理学を用いた手法を適用し、衝突過程の特性に関する前提を加え、巨視的な連続体流体力学方程式を導き出します。これが非線形のナビエストークス方程式です。

この方程式の数値計算には、この連続体の記述の離散化が必要です。つまり、時間および空間のすべての位置における流体変数ではなく、離散的な空間位置および時間位置における流体の特性のみを数値的に計算します。この離散的な一連の位置をまとめて計算グリッドと呼びます。高精度な解を求めるには、十分に分解されたグリッドが必要です。すなわち、シミュレーションの対象全体にわたり、必要なすべての物理を捕らえるためには十分なグリッドポイント数が必要です。この離散化ステップの導入により、導出すべき連続体方程式の解に誤差が生じ、さらに十分に分解されていないグリッドを用いてしまうと、乱流のような複雑なモデルにおいては発散または不安定な解析結果となる可能性が高くなります。これは、方程式の非線形特性が離散化ステップの数値解析を困難にするだけでなく、時として解析を不可能とするためです。加えて、物理境界条件の実現において発生しうる重大な問題も考えられます。さらに、多くの場合、これらの解の数値計算にかかるコストを削減するために定常ソルバーが用いられます。

次に、格子ボルツマン法について比較して説明します。格子ボルツマン法における必要な離散化ステップは、位相空間自体が離散値に限定される微視的レベルで行われます。これは、粒子が空間内の離散位置、離散速度、および離散時間に制限されることを意味します。つまり、本質的に時間依存の手法なのです。任意の空間位置において任意の離散速度が与えられた一連の粒子を、そのグリッドポイントにおける粒子分布と呼びます。粒子分布はこの手法の中心となる計算要素で、すべての流体特性を導くことができます。この離散化手法では、質量、運動量、およびエネルギーの正確な保存に関して粒子動力学の最も基礎となる特性を正確に実現することができます。

数値的な手法では、流体の対流は粒子の微視的速度によってLBMで実現されます。微視的速度は、各格子サイトとその隣接サイトで正確なリンクを形成する定数値のセットで構成されるため、対流ステップは常時、どの位置でもCFL数= 1に対応します。従って、数値的な散逸を最小化しつつ、時間ステップサイズを最大化できます。これと比較して、N-Sによる流体対流は、空間および時間の両方の関数の非線形プロセスです。N-Sを用いた対流プロセス、特に陽的な時間スキームは、処理がより困難になります。定数値の微視的速度は、さらに、複雑な形状を伴う境界条件の扱いを容易にし、幾何的な重みもシミュレーション実行前に判定できます。加えて、非線形の流体物理もLBMの局所的な衝突過程に完全に包括されます。これらの点から、複雑な形状を伴う時間依存の流体を効率的かつ並行的に計算することが可能となります。

次のステップでは、N-S方程式の導出で用いた連続体理論のアナロジーである運動論の離散化形式を離散的な微視的記述に適用します。微視的動力学における特定の要件が満たされると、導出される巨視的方程式は時間依存のN-S方程式と同じであることが示されます。すなわち、従来のCFD(N-S方程式)解析と同じ巨視的方程式が解けるので、要求される流体挙動が正確に得られるだけでなく、これらの極めて難解な方程式を従来の手法で直接的に解く代わりに、間接的かつより基礎的なレベルで解くことができるのです。

格子ボルツマン法と、その進化・拡張された手法により、PowerFLOWで流体の流れをシミュレーションすることができます。さらに、入口、出口、および壁の境界条件にも対応します。レイノルズ数が低い場合(10,000未満)では、高い精度で流体の直接的シミュレーションができます。しかしながら、直接的なシミュレーション手法では、関連するすべての運動スケールを解く必要があるため、正確にシミュレーションできるレイノルズ数は計算性能により制限されます。PowerFLOWは、このモードにおいても高精度な結果を得ることが実証されています(乱流噴流や円柱周りの流れなど、複雑な流れを記述できます)。相対的に低いレイノルズ数に対する偏微分方程式ベースのCFDソルバーは、制御できない数値的散逸という課題を抱えますが、PowerFLOWの大きな利点は、このような状況で発揮されます。

CFDによる乱流のモデル化

高レイノルズ数の流れでは、すべてのスケールを解決して直接的なシミュレーションを実行することは数値計算の観点から実用的とはいえません。従って、乱流構造を捉えるためには、乱流モデルが必要となります。PowerFLOWは時間依存のソルバーで、乱流構造を直接的にシミュレーションできる機能に基づくため、この点においてもPowerFLOWは根本的な手法を採用しております。

乱流の運動スケールは、散逸レンジ、慣性レンジ、および異方性レンジという3つの基本カテゴリーに分類されます。乱流の散逸レンジと慣性レンジは普遍的な特性を持つため、理論的な記述に利用することができます。乱流理論はこれらの普遍的な側面の記述に基づいています。これに対して、異方性乱流は最大規模の乱流運動スケールを持ち、その特性も普遍的でないため、異方性レンジに乱流理論を利用することはできません。

従来、この問題に対しては、異方性乱流を含む乱流の全体のスペクトルに有効渦散逸を考慮した標準的な乱流理論を採用するアプローチが取られてきました。多くの場合、このアプローチは、流れにおいて本質的な特性である時間依存特性が無視される定常ソリューションに適用され、RANS(Reynolds Average Navier Stokes)として知られています。ここでは、異方性スケールを含め、乱流のすべての運動スケールに対する渦粘性を定義するために、乱流理論が適用されます。この場合、異方性スケールの影響を考慮するために、また、時間安定性を得る為のより高い乱流散逸を考慮する為に、乱流モデルパラメータを経験に基づき調整する必要があります。

三次元高解像度の非定常ソルバー機能を備えるPowerFLOWを使用することで、異方性乱流スケール(または極めて大きい渦)を直接解析することができます。PowerFLOWは、乱流理論を適用できる散逸レンジおよび慣性レンジの普遍的な乱流スケールに限り、乱流理論によってモデル化します。サブグリッドスケールの乱流力学は、拡張された繰り込み群理論から導出した2つの方程式で表します。この手法は、VLES(Very Large Eddy Simulations)として知られ、一貫してLBMと組み合わせることにより流れを解くことができます。

PowerFLOWでは、乱流は以下のようにモデル化されます。Navier-Stokesソルバーにおける渦粘性と同様に、局所的および瞬間的な流れ場の情報に基づいて、普遍的な乱流運動スケールを考慮するために、局所的な有効緩和時間がボルツマンの衝突項に導入されます。この緩和時間は、補完する2つの方程式により、シミュレーション領域内の各セルの各時間ステップに対して局所的に決定されます。LBM VLESモデルは、大スケールと小スケール(サブグリッド)の分離が難しいことから、乱流を伴う状況により適しています。

まとめ

この概要では、流体運動ソルバーの基本手法から未解決の乱流による散逸効果のモデル化に至るまで、複雑な流体力学問題を解明するためにPowerFLOWで採用された基本手法について解説しました。米Exa Corporationでは、モデル化の基本物理を研究し、テクノロジーの進化をお客様にご提供することを理念としています。われわれが重視するのは、精度です。精度なくしては自信ある技術的判断は下せません。PowerFLOWの製品群は、この理念に基づいて開発され、要求される期間内に実世界の問題を解決できる機能をご提供します。